ビジネス・ブランド戦略と商標権

小売業と商標登録の必要性

小売業というのは、物を消費者に販売する役務(サービス)ですが、小売業者が商標を「使用」するというのはどういうことをいうのでしょうか。

商標法第2条第3項各号によれば、下記の通り規定されています。

(1)役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為

小売等役務についての「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する」としては、例えば、次のような物品が考えられます。したがって、それらの物に標章を付する行為が該当することになります。

  1. 店舗内の販売場所の案内板(各階の売り場の案内板)
  2. 店内で提供されるショッピングカート・買い物かご
  3. 陳列棚
  4. ショーケース
  5. 接客する店員の制服・制帽・名札
  6. 試着室
  7. その取扱商品や包装紙、買い物袋

(2)役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為

 上記(1)の行為(付する行為)の後で、標章を付した物を利用して役務を提供することを「使用」とするものです。

(3)役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為

 小売業や卸売業において、例えば、顧客が、手にとって実際に商品の確認を行うために店頭に展示された商品見本に標章を付して展示する行為があげられます。

また、商品の会計用のレジスターに標章を付して会計用カウンターに設置するような行為もこの規定に該当します。

(4)役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為

 商品の小売又は卸売の業務において提供される役務の特徴を踏まえると、なかなか顧客の所有する物に標章を付する行為を想定することはできませんが、商標法上、小売等役務商標の使用行為から除かれているわけではありません。

なお、従来からの一般的な商標法の役務における該当例としては、クリーニングの役務のように、顧客が持ちこんだ物品(例えば、ワイシャツ)に、クリーニングを施した後、納品するにあたりクリーニング済の衣服に標章を表示した下げ札等を付する行為がこの規定に関連します。

(5)電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為

 テレビ、インターネットサイトでの通信販売における小売等役務に使用する行為です。例えば、顧客のコンピュータディスプレイに表示されるインターネットサイト上に標章を表示して商品の販売のために商品の品揃え、商品説明などを行うことです。

(6)商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為

 例えば、次のような広告的な標章の使用行為などです。

  1. 標章を付した看板を小売店の店舗屋上に設置すること
  2. 電車内の吊り広告(広告内に標章を付したもの)
  3. 新聞広告(広告内に標章を付したもの)
  4. 新聞の折り込みチラシ(チラシ内に標章を付したもの)
  5. 店舗内で商品カタログ・価格表(商品カタログ・価格表内に標章を付したもの)を展示、頒布すること
  6. インターネットサイト上で取扱商品の広告を表示する際に、標章を表示すること


小売業について商標登録を行うということは、上記のような使用を独占的に行うためのものです。例えば、有名百貨店の包装紙や紙製の手さげは、各百貨店のロゴが入っており、どれもある程度周知なものです。このような包装紙や手さげを全く関係のない小売業者が使用して贈答品に使用したりしたらどうでしょうか?有名百貨店の名声のフリーライドにならないでしょうか?このような状況を防ぐ権原を与えるために商標制度はあったりするのです。

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